2021年に読んだミステリベスト10

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2021年も終わりですね。年末バラエティと紅白歌合戦を行ったり来たりしながらこの記事を書いています。

2021年は、私も所属するシャカミス(社会人ミステリ研究会)が本格ミステリランキングの投票権をいただいたこともあって、新刊をいつもより多く読むことができました。

年の瀬らしく、今年読んだミステリベスト10の記事を書こうかと思ったのですが、今年の新刊に面白いものが多すぎたことと、単純に読んでる冊数が少ない()ので、2021年に出た新刊5冊と、旧作5冊で選びたいと思います。

新刊編

柄刀一『或るギリシア棺の謎』

白と黒が交わる呪われた一族の惨劇。幾重にも張り巡らされた謎が織りなす不可解な状況とそれに挑む探偵美希風。エラリー・クイーンの『ギリシャ棺の謎』のオマージュであるだけに、王道ど真ん中の本格ミステリです。

なんといってもこの作品の魅力は、探偵美希風が披露する推理の美しさにあります。「犯人が残した偽の手がかり」までも意識して徹底的に論を詰める美希風の推理は、犯人の心情にまで手が届いたと錯覚するほどの精緻さです。複雑な謎を一つ一つ解き明かすたびに現れる真相にワクワクしました。

美希風の濃密な推理以外にも、読者を惹きつける魅力的な謎、すべてが明らかになってなお謎を含んだ幕引き、一族がたどる悲劇的な結末などなど……本格ミステリの楽しさや面白さ、魅力がこれでもかと詰め込まれた作品でした。最初から最後までずっと楽しかった。

麻耶雄嵩『メルカトル悪人狩り』

10年ぶりのメルカトルシリーズ新刊!みんな大好きメルカトル!

ここ最近に雑誌掲載された短編に加えて、これまで単行本未収録だった作品も掲載され、ファンには待望の一冊になりました。

悪人狩りに関しては感想記事を書いているので、よければこちらをどうぞ。

古野まほろ『征服少女~AXIS girls~』

シャカミス推理会の課題本になった本書。読者への挑戦に1ヶ月かけて解答を考えたことがもはや懐かしい。。

シリーズ前作『終末少女』を超えた、とんでもない伏線の量に圧倒されました。どんなに気をつけて読んでも、すべての伏線を拾って真実に辿り着くことは不可能に近いと言わざるを得ません。(シャカミス名探偵の総力でほぼ全問正解まで辿り着きましたが、一人では絶対無理……)

これだけ大量の伏線を張ってそれらの整合性を保ちながら、物語としても成立させる手腕と労力に脱帽です。

推理会が終わってしばらくの間は挑戦状を見たくなくなりました。

犬飼ねこそぎ『密室は御手の中』

タイトルの通り密室トリックをメインとした本作。ゆるいクローズドサークルもので、とある宗教団体の施設でバラバラ死体が発見されます。

とにかく密室トリックの発想がすごい。人智を超えた事象が論理的に説明される快感は本格ミステリの醍醐味ですが、それに加えて、「やられた!」と純粋に思わせてくれるトリックが楽しかったです。

本作でデビューの犬飼ねこそぎ。クローズドサークルやバラバラ死体もそうですが、探偵と助手の歪な関係も描いていて本格ミステリが好きなんだろうなという印象を受けました。今後の作品も楽しみです。

ホリー・ジャクソン『自由研究には向かない殺人』

2021年は、海外ミステリと言ったらこれ、というぐらい強かった作品。本ミスランキングではアンソニー・ホロヴィッツの『ヨルガオ殺人事件』に次いで2位でしたが、Twitterで感想をよく見かけたのはこちらの方が多かった気がします。

子どもの頃、ティーン向けのレーベルで読んだような、まっすぐな正義と愛にあふれている作品。生き生きとしたキャラクターと一緒に冒険している気分になるのも、最近の国内ミステリにはあまりないような感覚です。凄惨な事件を扱っているのに、読後感は爽やかで心が温かくなりました。

ホリー・ジャクソンの新作が近いうちに翻訳されると聞いたような。楽しみに待ちたいです。

旧作編

小泉喜美子『ダイナマイト円舞曲』

大好きな小泉喜美子さんの長編作品。マイ小泉喜美子ベストが『ダイナマイト円舞曲』に更新されました。

小泉喜美子さんは軽くて洒落たタッチの文章が特徴で、海外ミステリの翻訳もされていた作家さん。彼女の翻訳作品めいた上品な文章が、舞台である地中海の小国にそびえる王宮ととてもマッチしています。

皮肉混じりのユーモアや、小泉さん自身のミステリ論も織り交ざっている小泉ワールド全開な作品です。

小泉喜美子といえば、どんでん返しがすごい作品として一躍話題となった『弁護側の証人』が有名だと思います。『ダイナマイト円舞曲』には『弁護側の証人』のような驚愕な展開はありませんが、小泉喜美子さんのミステリ愛が伝わるこちらの方が私は好きでした。

小泉喜美子が残した長編は5作。未読は2021/11に復刊した『死だけが私の贈り物』のみ。

ああ、これを読んでしまうともう彼女の長編が読めないなんて……。(いつまでも読めないような気がする)

泡坂妻夫『ゆきなだれ』

『乱れからくり』や『11枚のトランプ』で有名な泡坂妻夫が、男女の機微をミステリアスに描く短編集。冒頭の謎で読者を惹き込み、意外な真相を経て結末に収斂する流れは名人芸です。

人情味あふれる登場人物が魅力的な人情小説であり、技巧を凝らしまくったミステリ小説でもあります。

中でも『雛の弔い』がいいんですよね……浪曲の世界に生きた一組の夫婦の過去と現在。ある矛盾をついた真相への導線は実にミステリ的で、短編としてのオチも秀逸。名作だと思います。

2021年大晦日に読み終わり、ベスト10に滑り込んだ一作。

詠坂雄二『T島事件』

ロケハンで孤島に渡った6人全員が死亡した事件をドキュメンタリー仕立てに描くミステリ。

詠坂雄二は『遠海事件 佐藤誠はなぜ首を切断したのか?』でもドキュメンタリー仕立てにミステリを書いています。もちろんただのドキュメンタリーでは終わらず、一癖も二癖もある衝撃の展開と結末が待ち受けます。どこで何を仕掛けてくるかわからないので気が抜けない詠坂作品ですが、『T島事件』も詠坂雄二の独特の癖が楽しめる作品で抜群に面白かったです。

エラリー・クイーン『Yの悲劇』

説明不要な超有名古典的ミステリ。呪われた一族ハッター家に潜む殺人犯に老優ドルリー・レーンが挑みます。

ドルリー・レーンのシリーズは、タイトルが『○の悲劇』であるように誰かが悲劇的な結末を迎えるシリーズだと思いますが、この『Yの悲劇』は犯人だけではなく、ハッター家の一族、そしてドルリー・レーン自身にもその悲劇が降りかかっているように思いました。探偵が抱える罪というか、すべてを明かしたことによって起こる悲劇を探偵が背負うこともまた悲劇。ドルリー・レーンのキャラクターが、舞台上で多くの悲劇を演じた老齢の元役者であることの意味はここにあるのではないかと思います。

陳浩基『13・67』

アイデンティティに揺らぐ香港の社会情勢を背景に、一人の刑事が辿った時代を遡る中華ミステリ。

とにかく一話ごとの密度が濃い!闇がうごめく香港社会をしっかりと描きつつ、刑事ミステリとしても抜群に面白い。主人公のクワン刑事がなぜ正義を求めるようになったのか。最終話は刑事クワンのはじまりの事件としてとても面白かったです。

クワンとローのコンビの話をもっと読みたいねぇ。

以上、2021年に読んだミステリベスト10でした。

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