タイトルの通り、哲学者である國分功一郎先生がさまざまな人の人生相談に答える本です。
この本を読み終わったときにふと、哲学者探偵という言葉が浮かびました。
とある哲学者探偵の推理
とあるところに、哲学を探求する探偵がいました。彼は、人間の心理や行動に対する幅広い知識と、相手の言葉の一言一句を見逃さない洞察力でもって、相手が隠していることや無意識に考えていることをつまびらかにする探偵です。
導入では、探偵のところに、相談者から事件のあらましと相談内容を伝える文章が送られてきます。文章というのは、書いた本人の意識も無意識も両方にじみ出るものですので、相談者の心の中を推理するにはぴったりの題材です。
そのため、ジャンルとしては安楽椅子探偵と相性がよさそうです。
匿名の相談文を受け取った哲学者探偵はまず、その文章に書かれていることと書かれていないことを読み取ります。
書かれていることに対しては、何について詳しく書かかれているかに着目します。詳しく書かれていることは、それを誰かに伝えたいという相談者の欲望の現れだからです。
探偵は、相談文に書かれていないことにも着目します。誰かに相談するうえで必要だと思われる情報が書かれていないということは、相談者が意識的に隠しているか、無意識に書く必要がないと思っているかのいずれかです。意識的に隠しているようであれば、相談者のどんな弱みや後ろめたさがそうさせるのか、無意識に書いていないのであれば、そこから相談者の思考の癖や認識の癖を分析します。
哲学では、一般的に当たり前のように考えられていることでも一つ一つ証明し、それらを地道に積み上げて論理を構成します。まさに哲学よろしく、哲学者探偵は相談文から推論を積み上げて相談内容の本質に迫るのです。
人生相談はミステリ
もちろん、この哲学者探偵とは國分先生のことです。
まさに上に書いたような形で、國分先生は、送られてくる人生相談を鮮やかに解決(?)へ導きます。
人生相談の本であるにも関わらず、このような妄想をしてしまうほど、この本に「ミステリみ」を感じたのは、國分先生の名探偵顔負けの洞察力と推理でもって、相談者の意外な本質が明らかになるという流れ。ここに実にミステリ的な既視感があったからです。
人生相談は、書かれていることを読んでいてはダメである。人生相談においてはとりわけ、言われていないことこそが重要である。人は本当に大切なことは言わないのであり、それを探り当てなければならない。
p259
帯にも書かれているあとがきの言葉です。
哲学者探偵でどなたか作品を書きませんか?
ただし、あくまでも哲学的に考察するのが特徴の探偵なので、殺人事件には向いていなさそうです(笑)
でもよくよく考えてみると、この哲学者探偵って『ミステリという勿れ』の主人公、久能整くんに近いかもしれない。違う方向の話をしていると思ったら、実は本筋とつながっているところも、なんだか似てます。(國分先生も、相談者のペンネームを見て『はらぺこあおむし』の話をしたりします)
他人の人生相談で気づくこと
この本には、恋愛、結婚、仕事など、人生のさまざまな場面の相談が34個収録されています。この中には、あなたがこれまで悩んできたこと、そして今も悩んでいることがあったら、それと近い相談がきっとあると思います。
自分とは関係ないな~と思っていた相談でも、國分先生の鋭い分析で「はっ、私にもそういうところあるかも……」とドキッとしたことがありました。
誰しも、タイミングや出会う人次第で同じような苦しい状況に陥る可能性はあります。その前に自分の歩き方の癖を知っていると、その淵でギリギリ止まることができるかもしれません。これが、他人の人生相談を読む意味でしょうか。
またこの本には、國分先生が相談に答える中で引用した本が参考図書として記載されています。興味があることはそこからさらに深く追いかけることもできるので、面白そうな本を探すという楽しみ方もいいかもしれません。
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