【感想(と倒叙ミステリについて)】交換殺人/フレドリック・ブラウン

交換殺人サムネ

フレドリック・ブラウン「交換殺人」の感想。全編ネタバレなしです。

海外ミステリを少しずつ開拓中のこの頃。「フレドリック・ブラウン」の名前とタイトルの「交換殺人」を書評か何かで見た覚えがあって、神保町をうろうろしていたときに目に止まり購入しました。

1963年出版の創元推理文庫版です。本自体は1972年の第10版ですが、約半世紀前とあってさすがに古いです。

表紙は、交換殺人を行う二人の人間を表しているのか、対になった手袋と帽子のイラストです。

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「交換殺人」について

交換殺人と言えば、ドラマの「あなたの番です」が記憶に新しいところ。

交換殺人をトリックとして用いた場合、探偵・警察側がどうやって交換殺人に気付くか、また、動機や人間関係から犯人を追うことが難しい中でどこに推理の糸口を見つけるかが見どころになります。

(「あな番」では序盤に交換殺人の可能性は示唆されてましたが。)

一方、フレドリック・ブラウンの「交換殺人」は、完全犯罪を企てる男が交換殺人を思いつき、それを実行に移す過程を追った倒叙ミステリになります。

倒叙ミステリの交換殺人の場合、相棒(自分が殺したい人間を殺してくれる人物)との駆け引き、全く知らない人間を殺害することへのスリル、そして何より、完璧に思われた交換殺人の計画がいかにして瓦解するかが見どころになります。

倒叙ミステリの話

交換殺人と少し話はそれますが、倒叙ミステリって昔はあまり好きなジャンルではなくて、好んで読むことは少なかったんですよねぇ。

倒叙ミステリといっても色々ありますが、特徴としては、犯人の動機や心理描写が普通のミステリ(探偵・警察視点のミステリ)より詳細に描写され、探偵に追いつめられるドキドキやスリルが味わえる点。そうすると、普通のミステリよりサスペンス感が強くなる。私は、探偵がロジカルに真相を明らかにするミステリが好きで、サスペンスのようなドキドキ感は求めていなかったのでちょっと退屈するジャンルでした。

そんな私が、ドキドキやスリル感以外の倒叙ミステリの魅力に気づけたのは最近のこと。

倒叙ミステリの王道というのは、「犯人が立てた完璧な計画。完璧な犯罪。しかし「何か」が原因で探偵・警察に見破られ失意に終わる」と、こういった流れ。

その「何か」が犯人のミスだったり、「風が吹けば桶屋が儲かる」的に犯行と一見関係ないところから忽然と現れたりして、犯人としては「こんなはずじゃなかったのに……!」ということになります。

犯人の計画をおじゃんにする「何か」は、たとえ犯人の行動と直接関係ないところから発生したとしても、何がしかの因果を巡って犯人の計画を暴くことになるのです。

悪いことは必ず暴かれる!と言うつもりはないですが、人の生を終わらせた(終わらせようとする)人間を一瞬で絶望の淵に陥れる因果には、畏怖というか何というか、不思議な感慨を覚えます。

犯人視点の倒叙ミステリでは読者も犯人に感情移入している分、犯人を巡る因果に気付かされたときの印象がより鮮烈になり、普通のミステリにはない読後感が味わえるような気がします。

それを期待して、倒叙ミステリに手を伸ばすことが出てきた感じです。

やっと本の話

で、「交換殺人」の話に戻りますと、主人公のウィリー・グリフは、いまいち売れない俳優としてうだつの上がらない日々を送るなかで、愛する女性の夫を殺して彼女と一緒になり、ついでに彼女の財産のおこぼれに預かろうと交換殺人を企てます。

物語はグリフの視点で進みます。初めは、地の文の「おれ」という一人称に馴染めなかった(笑)ものの、それも含めて、文章からはハリウッドにある場末のすれた街の情景が伝わってきます。まるでフランス映画のような!(ごめんなさい、フランス映画はよく分からないです。レビューにそういう感想があったのでパクりました。)

文章に関して、古さは当然ありますけど簡潔で読みやすかったです。

グリフが相棒を見つけるまでに費やすこと総ページの半分。そこまで退廃的な日常が続くので少し退屈な面もありましたが、交換殺人の計画が動き出してからはラストまで一気に走り抜けました。

交換殺人を企てる場合、一番難しいのは「直前になってどちらかが怖気付いたらどうするか」でしょうね。自分は殺したのに相棒が出来なかったら殺し損ですし。その対策として主人公グリフとその相棒はある行動を取り、それによって後に引けなくなった二人はお互いの使命を全うします。(それが果たしてよかったのかどうか、、)

二人の計画や行動はまぁまぁずさんなところもあったので、どこで計画が破綻するのかヒヤヒヤものでした(笑)が、ラストはお見事でした。

先述した倒叙ミステリの「因果」も感じられる、短い描写の中にすべての感情が詰め込まれた鮮烈なものでした。因果応報とはまさに。

(話もジャンルもまったく異なりますが、恩田陸さんの「ドミノ」のラストを思い出しました。物語がある一点に収束して終わるところが綺麗。)

以上、結構脱線しましたが、フレドリック・ブラウン「交換殺人」の感想でした。

総合点 ★★★⭐︎⭐︎ 3.5
オチのよさ ★★★★★
ロジカルさ ★
読みやすさ ★★★
登場人物の酒飲み度 ★★★★★

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