【感想】衣裳戸棚の女/ピーター・アントニイ

衣装戸棚の女、ピーター・アントニイの感想。ネタバレなしです。

あらすじ

七月のある朝少し前、長身巨漢の名探偵ヴェリティはけしからぬ光景に遭遇した。町のホテルの二階の一室の窓から男が現われ、隣室の窓へ忍びこんで行ったのだ。支配人にご注進に及んでいると、当の不審人物がおりてきて、人が殺されているとへたりこむ。さらに外では、同じ窓から地上に降りた人物が。問題の部屋に駆けつけてみると、ドアも窓もしっかり鍵がおりていて、中には射殺死体が――戦後最高の密室ミステリと激賞される名編。

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感想

著者のピーター・アントニイは、劇作家兄弟の合作ペンネーム。
密室ものとして有名な本作。合間に登場人物の挿絵イラストが登場する珍しい作品です。

舞台は長閑な田舎町のホテル。長身豚軀(と書いてあった)の探偵ヴェリティは、密室となった部屋にいた射殺体と遭遇する。同じ部屋の衣裳戸棚には、ホテルのウエイトレスの女が閉じ込められていた……。

密室が作られる理由にはいくつかのパターンがあって、(死体の発見を遅らせるためとか自殺にみせかけるためとか)密室ものだと大抵どれかのパターンには当てはまります。

そのパターンを悟られないように、または悟られた上でも真相がわからないようにトリックを駆使するのが作家の腕の見せ所なわけですが、この作品のトリック(と言っていいものか)は想像の斜め上を行っていました。。

密室が作られた理由自体は、よくあるパターンの一つではあるんですけど、その先の真相が衝撃的。

この時代のミステリといえば、クイーンとかヴァン・ダインとかバリバリ正統派なイメージが強く、こんな道を外れた(?)作品があると思わなかったので完全に油断していました。いうなれば、現代の新本格ミステリにありそうなどんでん返し。

いかにも怪しい衣裳戸棚の女から始まり、何人も現れる容疑者たちの証言を、探偵ヴェリティが子細に検証し一歩一歩真相に近づいていく……これすらもすべてトリック。いえ、演出といった方が正しいかもしれません。

すべては、最大限の演出をもって真相を明らかにするため、ラストをより鮮烈にするための下準備。

「新本格ミステリにありそう」と書きましたが、多分、劇作家であるピーター・アントニイ兄弟は、ミステリ的などんでん返しというより、「劇」としての印象的なオチを求めたんじゃないかと思います。作品全体にユーモアな雰囲気が強いのも、「観客(読者)に楽しんでほしい」って思いの現れかもしれません。

ミステリ好きは一読の価値ありかと思います。

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