【感想】不思議島/多島斗志之

不思議島

多島斗志之の「不思議島」の感想です。

あらすじ

《多島斗志之コレクション》
二之浦ゆり子は青年医師・里見に誘われ、瀬戸内海の小島巡りに同行するが、その際、ひとつの無人島を目にしたことで、過去の悪夢が甦る。彼女は15年前誘拐され、その島に放置されたことがあるのだ。里見と交際を始めたゆり子は、彼とともに過去の謎と向き合う決意を固めるが、浮かび上がってきたのは驚愕の真実だった。『症例A』の著者が贈る、ドラマとトリックが融合した傑作。解説=千街晶之

http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488460013

ネタバレなし感想

舞台は瀬戸内海の伊予大島。大小様々な島が浮かび、戦国時代に村上海賊が砦としていたこの地域には不可思議な伝説が残る。幼い頃の誘拐事件の傷を引きずるゆり子は、診療所の医師として島に派遣された里見に誘われ、伝説の謎を検証するとともに、自身の誘拐事件の記憶とも向き合っていく。。

と、こんな感じでスタートする「不思議島」。のんびりした瀬戸内海の気候に、のんびりした島民たち。知り合いばかりの島民の目を避けながら、いい年頃の男女が島のあちこちを渡り歩いて一つの謎を解き明かそうとなれば、ロマンス的展開になるのはお察しの通りというところです。

見ている(読んでいる)方が恥ずかしくなるくらいのロマンスは、もちろんそのままで終わるわけはなく、二人の関係が後々の大きな伏線になっているのが面白いところ。

冒頭、ゆり子によってさくっと解かれてしまう村上海賊の伝説も、二人の距離を縮めるための単なるイベントに留まらず、物語の重要なトリックと関連しています。

派手さはないものの地に足のついた安定感のある作品で、過去と現在、伝説と現実、作中に仕組まれたあらゆる物事の因果を見出しては、仕組まれた運命の中に迷い込んだような眩惑を覚えます。

そういう意味で、とても本格ミステリらしい作品でした。

多島斗志之について

多島斗志之を読んだのは「黒百合」に続いて二作目になります。

「黒百合」は、夏の山荘を舞台に少年少女のひと夏の経験を通して描かれるミステリ。

この二作は非常に雰囲気が似ていて、穏やかでキラキラした背景にふっと現れては立ち消える黒い靄を随所に感じます。一歩足を踏み外したら、入ってはいけない所に立ち入ったら、靄に全てが包まれてしまうような危うさ。

(不思議島では、結果的にある人物は入ってはいけない所に足を踏み入れてしまうわけですが、、)

氏は2008年に出版した「黒百合」を最後に作品を発表していません。(最初に読んだのが最後の作品だったのですね、、)

その理由はというと、

2009年12月19日に滞在していた京都市内のホテルを出たのを最後に消息を絶つ。多島は1989年頃に右目を失明しており、失踪前日、弟や長女に「1か月前から左目も見えにくい。この年で両目を失明し人の手を煩わせたくない。失踪する」との速達が届き、失踪当日には友人や出版社に「筆を置き、社会生活を終了します」との手紙が届いたと報じられた[2][3]。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9A%E5%B3%B6%E6%96%97%E5%BF%97%E4%B9%8B

自ら失踪。家族も行方が分からず、新聞記事にもなったというのですから驚きです。

そんな氏は他にも、精神疾患を扱ったミステリや、冒険小説、スリルなサスペンス小説など多彩な作品を残しています。これからひとつずつ読破していくのが楽しみな作家です。

!! 以下、ネタバレありの感想です !!

ネタバレあり感想

里見〜!悪い男や〜!

解説の千街晶之氏も書いてるように、ゆり子に感情移入していた読者ほど愕然とする結末。

結局は母親と同じだった。母親の過去とゆり子の現在。

それが相似の関係で同じ形を描いて繰り返された。

でも絶対に里見が悪いよ〜?

ゆり子にとっては、母が人殺し、かつ、それを隠すために父が自分を利用したという驚愕の真相が明らかになった直後。加えて、好きな人の裏切りに打ちのめされたゆり子に向かって、「僕は気になったことは確かめないと気がすまない」ってそりゃアンタ……。

殺されても文句は言えないって。^^;

それから、ゆり子父が仕組んだ、怪島を九十九島と誤認させるトリックについて。

うーん、こんなあからさまなトリックになんで気付かなかったのか。まさかそんなシンプルなトリックと思わなかったこともあるし、伊予大島とその周りの小島、つまり冒頭の地図の外に目が行かなかったことも大きい。

伊予大島は島とは言え、もちろん陸の孤島ではないですけど、ヒロインのゆり子は生まれてからの行動が全て島内で完結していて、作中の彼女の行動範囲も伊予大島とその周辺がメイン。

そんな彼女の狭い人間関係、行動範囲が、冒頭で示された地図と一致している。そうやって意図的に視野を限定されたと考えると、作者の術中にハマっていたな〜と納得してしまうのです。

ここで一つ苦言を申しますと、ゆり子父がゆり子を迎えに行ったのは九十九島ではないと判断する材料がなかったのが残念。怪島の存在を後出しするんだったら、その存在についてどこかの道筋から気づけないとフェアじゃないかなと思います。

(私が見落としてる道筋があったら深くお詫び申し上げますm(__)m)

不思議島、いいミステリ読んだな~っていう感じがあります。

そんないいミステリを書いた作家は、失踪しすでに筆を置いている。しかも寡作。

またひとり、一作一作噛みしめて読まないといけない作家が増えたようです。

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